認知機能

精神科医が説明する病気と認知機能の関係【精神科病院スタッフ向け】

投稿日:2019年6月24日 更新日:

前回に引き続き、スタッフ向け認知機能講座です。

精神科医が説明する認知機能講座【精神科病院スタッフ向け】

 

今回の記事の内容は「病気と認知機能との関係」と「病院では認知機能障害に対してどんなアプローチを行っているか」を説明します。

 

 

 

 

病気になる前から認知機能の低下は始まっている

認知機能の低下は、病気の影響だけでなく加齢でも起こります。

他にも、その日の体調に左右される事もあります。

眠たい時に集中できない」「イライラしてミスをした」こんな状態でも認知機能は一時的に低下しています。

 

では、精神疾患と認知機能との関係はどうなっているのでしょう。図にしてみます。

最近の研究では、幻覚妄想がひどくなったり、気分が落ち込むなどの精神症状がひどくなる前より認知機能の低下が始まっていることがわかってきました。

 

なので、認知機能の低下によって「生活がうまくいかなくなる」「ストレスをうまく処理できなくなる」事で精神科の病気になりやすくなってしまいます。

 

 

他にも幻覚や妄想、抑うつ気分などの精神症状がお薬でよくなった後も、認知機能の低下は元通りにならないことがわかってきました。

 

 

こういった事から現在の精神科医療では、病気の治療だけでなく生活機能訓練や認知機能向上を注目するようになってきました。

 

これを具体的に言ってみると

 

・精神科病院に入院中の患者さんの中には、幻覚や妄想が何年も再発していないのに退院が出来ない。

・これは地域で生活するための生活機能がもどっていない。

・だから生活機能訓練や認知機能訓練をする。

 

といった事になりますね。

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homareko

整形外科でのリハビリで筋トレをするように、こころの病でも生活の練習をしないといけないのです。

 

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病院で行っている認知機能低下へのアプローチ

病院では、病気で低下してしまった認知機能に対して、リハビリを行うようになりました。

 

筋肉と同じように、認知機能は鍛えれば若返らせることができます。

 

神経認知機能の低下に対しては、認知矯正療法、社会認知機能の低下に対してはMCT-J,SCITなどのプログラムがあります。

 

それぞれの特徴を表にまとめてみました。

神経認知機能 認知矯正療法
NEAR
Jcores
認知機能障害の程度を確認し、障害の種類、程度に合わせて、コンピューターソフト(ゲーム)でトレーニングをします。基礎機能をきたえることで、生活のしづらさを改善します。
社会認知機能 メタ認知トレーニング
MCT-J
クイズなどを通して自分の考え方のクセを学びます。もしかしたら、記憶ちがいかな?早とちりで間違っていないかな?とよく問題を吟味する力がつきます。
社会認知機能 社会認知、対人関係トレーニング
SCIT
相手の表情や行動から相手の気持ちを理解できるようにするトレーニングです。対人関係のスキルを向上させます。

そのほかにも、プリントなどを使ってきたえる方法や運動と合わせてきたえる方法などもあります。

私なり考えたトレーニング用紙も用意してありますので、良かったらご参考ください。

認知機能紹介(神経認知)

 

これらにアプローチする上で私が参考になったおすすめの本はこちらです。

 

 

 

そして、このようなリハビリをしてよくなると、どんな変化があるのか?

患者さんの声をまとめてみました。

 

この様に認知機能は、毎日脳の中でつかっているものです。

日常生活の中でうまくいかなかったことも、認知機能をきたえることでうまくいくようになることがたくさんあります。

きたえた認知機能を日常生活で使っていくことが大切です。

 

 

患者さんは、認知機能の低下によりうまくつながりを理解できない傾向があります。

せっかく認知機能をきたえても日常生活に応用することができない時があります。

患者さんの日常生活の変化を観察できたら、よくなったところをフィードバックしてあげてください。

 

 

 

フィードバックの時のポイントは、3つです。

・患者さんには、認知機能の低下を感じてもらう。

・どの認知機能の低下によってうまくいっていないのかを知ってもらう。

・介入者が機能低下している認知機能の状態に合わせて対応する。

 

私たちも、記憶力が悪くなってきたとき、メモをとったりしますね。

低下した機能を補う為に、生活上の工夫をアドバイスしていくのも良いフィードバックと思います。

またリハビリを行っている場合、日常生活の小さな変化からよくなったところを具体的に話してあげることがとてもいい効果につながります。

普段している生活指導も認知機能訓練になっているんですね

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看護師さん

 

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homareko

そうです。いつも頑張ってくれている看護師さんには感謝しています。根気よく付き合ってあげてください。

 

 

 

 

先生、具体的な生活場面で観察できる認知機能低下の例も教えて頂けると良いのですが…

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看護師さん

 

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homareko

では、患者さんのよくある行動がどの認知機能の低下と結びついているかを説明しますね。

 

患者さんのよくある行動から、どの認知機能の低下と関連しているか表にしてみます。

認知機能別の生活上のヒントを参考に患者さんへのフィードバックや生活指導、退院支援に取り組むときにお役に立てるかと思います。

 

患者さんの行動と対応のポイント

認知機能の低下 観察される行動 対応のポイント
注意 ・「どこをみてるの?」「きいてるの?」と思う
・ポイントがずれている
・同じところをずっと見ている
・集中できない
・ひとつのことが終わらないうちに次のことをし始める
・「今、重要!」「ここ見て!」などの注意を向けてから話す

・集中できる環境を整える
記憶 ・やったことを思い出せない
・言えば思い出す
・慣れたことはずっと繰り返す
・何度言っても間違える
・どうやったか思い出せない
・印象に残った一部がフラッシュバックする
・言えば思い出すことができるので、「○○でしたよね」「△△は楽しかったですね」などの声掛けがよい
・認知症と同レベルの記憶状態ということをわかってあげる
・記憶を助ける方法を一緒に考えてあげる
処理速度 ・口早にいわれたことはわからない
・同時にいくつものことを言われてもわからない
・同時に複数の作業を行うことは苦手
・ゆっくり話してあげる
・いくつもの指示を一度にしない
流暢性 ・よく似たことも関連付けて考えることができない
・会話が続かない
・「はい」などの返事しかしない
・あいまいな言葉で話さない
・よく似ている事柄だからできると思わない
遂行機能 ・問題を解決する方法がわからない
・決められない
・できない(できる)と思う
・避ける
・始めたことを途中でやめられない
・同じ失敗を何度も繰り返す
・順序だてて考える、計画をたてることは苦手なので、ステップは一つずつ示す
・楽しい、得をするということが見通せないので、まずは一緒にやってみようと促す
・失敗してしまうこと、うまくできないことを「この人だめだ」「無理だ」と思わないこと
社会知覚
表情知覚
・大きな声で話すとすぐ怒っていると思う
・言葉の一部でしか意味づけができない
・にこにこと話しかけられると不快に思わない
・あいまいな表情は、おこっている、悲しんでいるととらえてしまう傾向があるので、できるだけ笑顔で話しかける
心の理論 ・周囲で起きていることは、すべて自分に関係があるらしいと考えてしまう
・自分でやろうとすることを邪魔されるといじめられていると感じる
・パーソナルスペースをよめない。近づきすぎてしまう
・自分の気持ちを言葉で付け加えて、説明する「○○をされると、怖い」「△△はうれしい」
・具体的な距離を示し、相手が心地よく感じるパーソナルスペースをみにつけてもらう
情動処理 ・相手が嫌がっていることがわからない
・つらかったけれどうれしいなど複数の感情が混じると不快の情動にとらえてしまう
・楽しいことを体験してもらう。つらかったことの方が強く感じやすいことをスタッフが理解しておく
社会知識 思ったよりできない ・見た目よりもよく知らないことが多いことを理解し、教える。
原因帰属バイアス 相手や環境のせいにする ・いくつかの原因を考えるくせをつけてもらう
結論の飛躍 ・すぐ結論に結びつけてしまう
・早とちりしやすい
・早とちりしやすい傾向を本人にわかってもらう

今までより項目が多いですね?!

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看護師さん

 

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homareko

今までの説明してきた事が主に「神経認知機能」でしたが、これに「社会認知機能」を加えたので多くなりました。

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homareko

ですが、大まかな認知機能の分類はこれで収まります。少しずつでいいので観察や援助をしてあげてくださいm(_ _)m

 

 

患者さんが安心して生活ができるようになると、ストレスも少なくなり、退院後の生活が安定し再発の予防にもつながります。

また、再発予防に大切な病識の獲得や服薬管理も認知機能が改善するとよくなることが報告されています。

認知機能の視点から患者さんを診療していくことによって実現されるメリットは大きいですね。

 

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認知機能の低下を理解するようになって変わったこと

最後に勤務している病院のスタッフの声をお伝えします。

認知機能のことを知ってから、自分たちの患者さんへの接し方が変わってきたという意見が多く聞かれました。

自分の勉強にもなった。自分にも考えのクセがあることがわかった。患者さんたちの変化が楽しみになった。(メタ認知トレーニング担当)

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看護師さん

患者の生活上の問題とOTにおける治療ターゲットを結び付けやすくなった 

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作業療法士

患者さんのダメなところを指導することが仕事と思ってきたけど、認知機能のことを知ってから、患者さんと一緒に希望をかなえるためにどうしたらいいかを考えるようになった。(認知矯正療法担当)

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看護師さん

患者さんとの会話の中で、認知機能を意識し、どの認知機能へ働きかけるかを考えるようになった。生活指導の解決の糸口、整理をしやすくなった。(認知矯正療法担当)

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看護師さん

認知機能訓練を取り入れる事で、患者さんをより理解することでサポートの姿勢が変わってきました。

より良い診療現場になってきていることはとてもうれしいことですね。

一緒に頑張ってくださっているスタッフの方々に感謝しています。

m(_ _)m

 

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今日のポイント

・こころの病気になる前より認知機能は低下している。そして元に戻りにくい。

・患者さんには何かしらの認知機能の低下がある。

・認知機能訓練は生活へのフィードバックが大切。

・認知機能の改善は患者さんの希望をかなえる・病気の再発予防などにつながる。

・これからの精神科現場は認知機能アプローチがスタンダードになる。

前回から今回にかけての記事は、私が勤務している病院で、スタッフ向けにおこなった勉強会の内容をまとめたものです。

精神病院だけでなく、就労支援・リワーク・認知症予防・発達障害など多くの場面で認知機能の低下にむけての取り組みが盛んになってきました。

このブログがいろいろな場面で必要とされる認知機能の理解にお役立てできていればうれしいです。

 

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